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コロンビアコーヒー買付レポート 〜 生産者と消費者をつなぐ “フェアプレー” 〜
2023年9月にコロンビアを訪れました。今年、4か国目となる生産国訪問です。ONIBUS COFFEEでは、今までにもコロンビアコーヒーの取扱いはありましたが、現地に赴くのは今回が初めて。そして本記事を執筆している蜂須賀にとっても初めての生産国訪問でした。私は以前から「生産国に行ってみたい!」という想いをもっていましたが、いざその機会に携わることになりとても緊張しました。
訪問を通して私が感じたトレーサビリティの大切さや、現地で目にした生産者の姿、ONIBUS COFFEEが生産者との関係性を築くことの意味をお伝えしていきます!
コロンビア共和国について
コロンビアは南アメリカに位置する国で、南部は赤道直下にあたります。国土は日本の約3倍、人口は約5000万人でラテンアメリカ(中南米)の中ではメキシコ・ブラジルに次いで3番目。コーヒーの生産量は、現在世界第4位となっています。
コロンビアには33の県があり、今回訪れたのは、ナリーニョ県のブエサコ。日本からは、アメリカ・ヒューストン、コロンビア・ボゴタ、そしてパスト(ナリーニョの県都)を経て到着。首都ボゴタの空港はエル・ドラード(El Dorado)という名前ですが、これはスペイン語で「金箔をかぶせた」、「黄金の人」、「黄金郷」などの意味があり、金の採掘が盛んだったことに由来しています。現在も鉱業は盛んで、石油・石炭・金などが採掘されています。首都ボゴタは標高2600m程で、滞在していたナリーニョ県のブエサコは場所にもよりますが標高1700-2100m程。下調べをする前は「赤道直下だし、暑いんじゃない?」なんて思っていたのですが、日中は25℃、夜間は14℃前後。比較的乾燥もしていて標高が高いので日差しはジリジリ、夜はかなりひんやりして雨が降った日は吐く息も白くなるくらい。コーヒーを扱っていると「標高が高いエリアは昼夜の寒暖差がある」とよく耳にしますが、それを身をもって感じました。
買付と農園訪問
現地サプライヤーの厳しい品質管理
今回の訪問は、現地のサプライヤーFair Field Trading(F.F.T.)の企画した『Washed Coffee Festival(W.C.F.)』に参加しての買い付け、そして現地視察が目的でした。F.F.T.社長のAlejandro(アレハンドロ)さんは68歳ですが、彼がコーヒーに関わり始めた頃には、現在のスペシャルティコーヒー業界では付加価値の一つともなっている『マイクロロット』や『マイクロリージョン』など個別の生産者に焦点があてられることがあまり無かったと言います。
販売価格を左右するグレード付けもスクリーンサイズ(豆のサイズ)のみで、フェアトレードやオーガニックの認証制度が少しあるくらいだったそうです。そのような環境で、アレハンドロさんは「品質にこだわる生産者ごとに適正価格をつけ適正な販売、Fair Play」をしたい」という気持からF.F.T. を立ち上げ、W.C.F.も品質や伝統的な生産方法を取る生産者にスポットをあてたいという想いで開催しました。
F.F.T.は、生産者が持ち込んだコーヒー生豆を購入し、それを全世界のコーヒーロースターに販売している組織です。F.F.Tには、国内の主なコーヒー生産エリアに管轄マネージャーがおかれていて、彼らが各エリアの生産者と交流をし売買をしています。各オフィスが、生産者のパーチメント(脱穀前のコーヒー生豆のこと)持ち込みスポットになっていて、そこで持ち込まれたコーヒーがF.F.T.の買取基準に合うかどうかをみる厳しいチェックを行います。輸出時の一般的な規格は麻袋70kgサイズなのですが、その量を確保するためには、脱穀や欠点豆の除去などを加味した量を購入しなければいけません。
F.F.Tでも、水分値・豆の密度・欠点豆・スクリーンサイズ・カッピングスコアなどを基準にどれくらいのパーチメントが必要か計算していて、この数値が低い程、品質チェックが厳しいということを意味します。コロンビアの他のサプライヤーの平均的な基準は92.8kg(脱穀や欠点豆除去などを経て70キロにするために必要な量)(https://magdalena.federaciondecafeteros.org/servicios-al-caficultor/aprenda-a-vender-su-cafe/?lang=en)ですが、F.F.T.は88-90でないと買取しない、という厳格なスタンスです。厳しすぎて生産者を突き返しちゃうのでは…と感じましたが「品質改善を目指している生産者は何度も持ち込んできて、私たちのフィードバックやより良いものを作るためのアドバイスを求めてくる。」と話していました。
滞在中に訪問した農園でも生産者と対話しているのを見て、品質や自分たちの厳しい基準を理解してもらえる人たちの信頼関係を大切にしているんだなと感じました。持ち込んだのに基準に合わないと言われた生産者はどうするの?と思うかもしれませんが、街中には他にも買取業者がいて、その基準も様々です。F.F.Tのように品質への対価を求めて高い基準の業者に持ち込む生産者もいれば、とにかく早く収穫・持ち込みをして、低価格でも買い取って欲しい生産者もいます。
農園視察
今回はナリーニョ内の農園をいくつか訪問することができました。
その中から2か所紹介します。
最初に訪れたサン・イシドロ農園。
F.F.T.のブエサコオフィスからバスに3時間ほど揺られて到着。農園主のペドロ氏はエリアのリーダー的存在として信頼が寄せられています。彼は「買い手はたくさんいるが、一緒により良い品質を追求して信頼関係を築ける人たちと出会いたい」と話していました。農園の管理を息子さんも含めた5人のグループで行っていて、メンバーには農学者や、焙煎・抽出に精通した人、家族が大規模な農園やサプライヤーを担っていて経験豊富な人がいます。
自分たちの作るものの品質に妥協せず、5人でよりよいコーヒーづくりに取り組む姿が印象的でした。
次に訪れたのはチリモジャ農園。
農園内の丘からはF.F.Tのブエサコオフィスが見え、「お互いいつでも見あえていいね!」なんて談笑する場面もありました。ちなみにチリモジャとはフルーツの名前で敷地内に多く生えていたことからつけた名前だそうです。農園内はシェードツリーも含めて様々な植物や竹までも生えていました!農園主のヘンリー氏と奥さんが協力して経営をしています。
標高は1500m前後とあまり高くなく日中は汗ばむ気候でしたが、この土地では水資源が豊富なため、水を活用して発酵温度が上がりすぎないよう管理をしていたり、作業場の温度管理もこまめに行っていると話していました。精製過程で排出される水は、農園内に適切に撒くことで環境負荷を減らしたり、コーヒーパルプなどを活用したコンポストも所有しています。
私たちの訪問中もF.F.T.メンバーからのアドバイスに熱心に耳を傾けていました。
変化する栽培環境
コーヒーに携わっていると、生産国での地球温暖化の影響を耳にすることがよくあります。私たちも普段の生活で、「今年の夏は去年より猛暑」「桜の開花が早まっている」など気候の変化を感じていると思います。訪問した農園でも気候変動の影響をダイレクトに受けていました。
例えば、サン・イシドロ農園では収穫時期が1年に1度だったけれど、今年は初めて通称『ミタカクロップ』と呼ばれる2度目の収穫を迎えたそうです。収穫量が増えていいのでは?と思うかもしれませんが、温暖化によって変化し続ける栽培環境で安定した品質のコーヒーを作ることが課題であったり、長い目で見ると栽培に適した環境が減っていくことを意味しています。チリモジャ農園では、さび病に初めて直面しています。被害が拡散しないよう取り組んでいますが、すでにさび病になってしまったコーヒーノキは枯れてしまいます。今まで病気の影響がなかったため、対処法なども新たに学び始め実践している最中です。
ONIBUS COFFEEでは環境負荷の少ない資材を使用したり、ゴミ削減につながる取組を実施しています。日本とコロンビアなどの生産国はとても距離が離れていますが、それでも日々の小さな取り組みをつみ重ねることで、コーヒーづくりに携わる人たちが美味しいコーヒーを作り、楽しめる環境を守りたいと改めて感じました。
コロンビア訪問を経て
日々スペシャルティコーヒーを扱っている中で「良いものを作っている人たちが正当な評価を得てほしい」という想いを持っていることもあり、普段飲んでいるコーヒーをどんな人たちがどんな様子で生産をしているのか直接目にしたいと思っていました。現地でサプライヤーや生産者と対面することで、よりよいものを作り消費者に届けようとしている姿を目にし、自分たちのコーヒーに誇りをもち信頼できる相手に届けたいという想いを聞くことで、それを私たちのお客さまにも伝えていく責任を改めて感じました。
普段手にしているコーヒーには様々な人たちが関わっていて、そのなかでも品質に向き合い日々試行錯誤してくれている生産者がいるからこそ美味しいコーヒーを口にすることができます。私たちはその生産者の姿や想いをお客さまに伝え、理解・納得して消費してもらうことが使命だと思います。また現地で目にした環境問題やサステナビリティ・トレーサビリティの課題は、コーヒーが生産国からお客さまの手に届くまでの過程にONIBUS COFFEEがいるからこそ日々向き合う必要があります。
日本からとても遠いコロンビアですが、私自身コーヒーはもちろん現地の言葉や食文化、人柄、音楽にも魅力を感じています。
「治安がよくないから気をつけて!」と言われることもありましたが首都からは離れた場所ということもあってか、街はとても穏やかでした。外を歩いていると、目が合う度ににっこりしながら「Buenos dias(こんにちは)」と挨拶をしてくれ、夜は近くの学校の学生たちが先住民文化を伝える踊りを練習している姿もみれました。昼間は子どもたちが道で遊んでいるのですが、こちらに気づくと恥ずかしがりながらも駆け寄って話しかけてきて、「一緒に写真とって!」「どこから来たの?」「日本語でHolaってなんていうの?」と遠い国からきた私たちに興味津々。
彼らが私たちに興味をもってくれたように、コーヒーを通じて生産国の人たちやその暮らしにも関心を持つことで「コーヒーで、街と暮らしを豊かにする。」というビジョンに近づけるのではないかと思います。
今回買い付けたロットは早ければ1月にリリースを予定しているのでお楽しみに!
Text by Hana Hachisuka