2022.8.25
  • スペシャルティコーヒー

『コーヒーノキを知る』その①〜木の生体と生産国から分かる、育成に適した環境〜

『コーヒーノキを知る』基礎編〜木の生体と生産国から分かる、育成に適した環境〜
『コーヒーノキを知る』基礎編〜木の生体と生産国から分かる、育成に適した環境〜

私たちにとってすっかり身近な飲料となっているコーヒー。毎日のように飲み、日々の生活に欠かせないものとなっている方も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。(私も今コーヒーを飲みながら書いています。必須。)

それだけ身近な存在であるコーヒーですが、コーヒー豆のほとんどが、はるか遠い海外からはるばる海を渡って日本にやってきていることに、改めて思いを巡らせてみましょう。

さて皆さんは、”コーヒーノキ”や”コーヒーチェリー”を実際に見たことがありますでしょうか。

大前提ですがコーヒー豆は”豆”ではなく”果実”であり、生産国で大切に大切に育てられ収穫されたのち、私たちの元へ運ばれます。

今回の記事は『コーヒーノキ』に関するお話しです。基礎知識から、応用知識、番外編まで。豪華3回にまたがってじっくりお送りしていきます。

「コーヒーノキ」の生体

「コーヒーノキ」の生体

「コーヒーノキ」とカタカナで書いていますが、何を隠そうこの木はコーヒー豆の元となる実がなる木。アカネ科コーヒーノキ属(コーヒー属・コフィア属)に分類される植物の総称です。

コーヒーノキは年間を通して葉が生い茂る常緑樹で、大きく育っても高さは3m前後。葉は艶のある深緑色をしており、時期になると白くて小さな花を咲かせ、その後チェリーのような赤い実を付けます。その”チェリーのような赤い実”こそが、「コーヒーチェリー」と呼ばれるカフェインを含む果実。そしてコーヒーチェリーの種子がコーヒーの原料となり、親しみのあるコーヒー豆となります。

コーヒーチェリー

コーヒーはそもそも果実なので、スペシャルティーコーヒーのフレーバーが様々な果物の風味に例えられることは、とても理にかなっています。(フレーバーについてはこちらの記を参考に!)

木の種類(品種)は、大きく分けると「アラビカ種」「カネフォラ(ロブスタ)種」「リベリカ種」の”3大原種”に分けられます。時代の変化と共に、その3大原種に突然変異が起きたり、自然交配や人工交配によって、現在のコーヒー生産国では様々な品種が育てられるようになりました。(コーヒーの伝播や品種については、こちらの記事を読んでみてくださいね)

コーヒーノキの品種は現在進行形で増え続けているのですが、それは、コーヒーの生産各国の育成環境への最適化を図ったり、より美味しい・より高品質なコーヒーを作る為になされていると言っても過言ではありません。

なぜなら、コーヒーノキが立派に育ちかつ赤い実をたくさん生らせるには、適切な環境と様々な条件が重なることがとても大切。コーヒーノキは育てるのがとても難しく、デリケートな木なのです。

コーヒーノキが育つ気候・土壌条件

コーヒーノキが育つ気候・土壌条件

コーヒー豆の生産国の大半が、赤道を挟んで北緯・南緯25度に位置する『コーヒーベルト』と呼ばれる地域にあります。コーヒーベルトは赤道から近いこともあり亜熱帯気候の地域に当てはまり、そこにはコーヒーノキの生息と栽培に適した条件が揃っています。

亜熱帯地域に生息する特徴としては、コーヒーが比較的温暖な気候を好むことが想像しやすいですが、その他にも様々な環境要因が重なっていることがポイントとなります。

1、メリハリのある雨

まず第一に必要な条件は雨(水)です。これはコーヒーノキに限らずどんな植物でも非常に大切な要素です。水は人間にも必要ですね。

コーヒーの育成に必要な年間降雨量は1800mm〜2500mmと言われています。(数字ではあまりイメージしづらいですが、、)つまりは安定した降雨量が必要なのですが、一度に大量に降ればよいというのではなく、”雨季”と”乾季”のメリハリがはっきりとあることが何よりも重要になります。

”雨季”は、コーヒーノキの成長時期。そして”乾季”は、コーヒーチェリーの収穫時期となります。

2、温暖な気候

コーヒーノキが育ちやすい気候は、一年を通して平均気温が20度前後であること。暑すぎたり寒すぎたりする国や地域では育てることができません。通年大きく変わらない気候が良いとされながらも、1日の中での昼夜の”寒暖差”がしっかり分かれていることがより適した環境となり、良質なコーヒーチェリーを育てる重要な条件となってきます。

”寒暖差”があると、昼間は光合成によって糖類を蓄え、夜間は寒ければその糖分を蓄えることができるので、フレーバーが発達しやすくなります。着地としては、寒暖差はコーヒー豆の味に大きく影響を与えることに繋がってくるのです。

3、日当たりのコントロール

コーヒーノキは基本的に日光を好む植物です。ある程度の日照量が必要なのですが、あまりにも強い直射日光を浴びると元気がなくなったり、葉が日焼けをする原因となります。葉焼けのムラがあると十分な栄養がコーヒーチェリーに行き渡らなくなってしまったり、部分的な枯死を招いてしまう恐れもあります。

そのような事態を回避し適度な日当たりを確保するためにも、諸生産国では、コーヒーノキよりも背の高い木で強い日差しを緩和してくれる役割をする「シェイドツリー」を近くに植えることもあります。

この「シェイドツリー」に関しても諸説あります。改めてお話ししますね。

4、肥沃な土壌

植物が立派に育つのには、その植物に合った良質な土が重要であることは、基本中の基本ですよね。

コーヒーノキの成長には、水はけが良く肥沃な土壌が必須です。肥沃な土壌というのは、有機物や無数の微生物が生育していて養分のバランスが整っている土のこと。地表や大気に溢れている有機物を、微生物たちが分解することで「窒素」「リン酸」「カリウム」「マグネシウム」や「カルシウム」などの要素をバランス良く含んだ土を作ることができ、コーヒーノキの育成に適した土壌になっていきます。

また、コーヒーノキの土壌は火山質が良いとも言われています。火山灰には有機物を多く含むので上記で挙げた要素を豊富に生成させることができ、かつ水はけも良好だからです。さらには火山質の土壌はやわらかく、コーヒーノキの根っこが伸びやすく栄養素を効率的に吸収できるといった点も、適していると言われる理由かと思います。

なんといっても、「土」は奥深き神秘的な微生物の世界、、、”コンポスト”を作ったり”森の改善”(ONIBUS10周年イヤーの取り組みです!)にも携わらせて頂いたりと、ありがたいことに現在進行形で土と触れ合う機会がある私たちは、サスティナブルかつ偉大な世界に圧倒されることばかり。まだまだ知見を深めていかねばです。

5、標高

標高に関して、コーヒーノキは主に標高500m〜2500mの高地での育成が適していると言えます。(富士山でいうと、5合目が標高約2,300m前後に当たります。生産地にとっても高地な方で滅多にありませんが、イメージまでに)

亜熱帯気候というとかなり暑い国と思われがちですが、生産地域はその国の山や高地であることがほとんど。標高の高さを考えると、暑すぎず、それこそ気温でいうと20度前後であることが想像できますね。(もちろん国や地域差はあります)

今までお話ししてきた寒暖差や日当たりの良さ、火山質の土壌も標高の高い場所の方が見受けられやすいのです。

そして、高地で育つコーヒーは、栽培や収穫の難しさ(都心部からはかなり離れていいる場所が多いので物理的に行きづらい、、)がありつつも、コーヒー豆の味わいに大きな影響を与えることから、グレードを決定する際の判断基準のひとつにもなっています。皆さんもスペシャルティコーヒーを飲む時、是非そのオリジンの産地情報を見てみてください。(英語表記では「Aititude」と記されています)それぞれ、とても高い場所で収穫されていることが分かりますよ!


ちなみに、現在のオニバスのコーヒー豆ラインナップで一番標高の高い豆は、
ETHIOPIA Worka Sakaro ”Riped Cherry"(Altitude:1,900m~2,100m)
RWANDA Remera Undershade lot8(Altitude:1,800m~2,200m)
です!

産地に最適化するコーヒーノキを育てる

産地に最適化するコーヒーノキを育てる
(写真:Guatemala Ventana grande オニバスチームが訪れる農園)

さて、ここまでコーヒーノキの育成に必要な環境条件を紹介してきました。

しかし、これらの条件は、先述した通り現在進行形で増え続けている品種の全てにとって必要かつ適しているかといえば、そうとも言い切れません。

赤道にほど近い地域で標高の高いエリアには、特に風味豊かなスペシャルティコーヒーの要であるアラビカ種のコーヒーの名産地が多くありますが、あまりにも標高が高い場所は霜の影響も大きく、霜に弱い品種にとっては最適の環境とは言えないこともあります。標高が低い地域でも十分に育つ品種があったり、例えば耐病性があり害虫に強いカネフォラ種などは全体的にもっと緩やかな条件下で育ち、安定した生産量を確保することも可能なのです。

生産国による環境の違いや生産されたコーヒー豆の用途の違い(品質や味にも大きく影響しています)など、様々な理由によって品種改良がなされているコーヒーノキですが、そのようにして生産者は日々、コーヒーノキのための適切な栽培条件を揃えつつ、自分たちがその地で育てたいコーヒー豆を作るためにも日々研究を重ねコーヒーノキと向き合っているのです。

さいごに

さいごに

今回は”コーヒーノキを知るその①”として、その生体と育つ為の気候や土壌条件について詳しくお話しさせて頂きました。基礎編、ということにしておきましょう。品種に関しても少し触れましたが(品種は知れば知るほど沼!こちらの記事をご覧ください)、様々な条件が見事に絡み合うことでコーヒーノキは大きく成長し、実を付け、コーヒー豆として私たちのもとへ届けられます。

日本ではない国で育てられるコーヒーノキは、生で見たことがない方がほとんどだと思います。それでも、美味しく飲むことができている以上、それらがどこでどのように、誰の手で育てられているかを考え、思いを馳せることはできます。

スペシャルティコーヒーを飲む際は、是非とも産地情報に着目してみてくださいね。

ちなみに、コーヒーノキは実は身近に育てられることも、ご存知でしょうか。この話については、また次回以降のお楽しみ!

今日も美味しいコーヒーと共に素敵な日々を。


執筆者:小倉未紀

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