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ONIBUS10周年プロジェクト〜森の改善を通してコーヒーショップの未来を考える〜
何度もお伝えしてきた通り、今年2022年はONIBUS COFFEEの10周年イヤーです!
1月に行った創業の奥沢店でのドリンクフリーデー&スペシャルビーンズリリース(が、遥か昔の記憶になりつつある私です)から始まり、4月には初のカフェ形態となる自由が丘店、ABOUT LIFE COFFEE BREWERSの待望の2店舗が立て続けにオープン、そして7月には初の都外店舗の那須店がオープンしました。これだけでも盛りだくさんなアニバーサリーイヤーなんですが、実はもう一つとっても大事なことをしていたのです。それが「森の改善に携わること」。
10周年企画はなんと「森の改善」
【写真】栃木県・森林ノ牧場(2020年6月撮影)
自分たちのアニバーサリーを素直に盛り上げられないシャイなONIBUSチーム。それでも、節目の年を祝いたいという気持ちはあります。周年ブレンドや、オリジナルグッズなども考えたのですが、もっと”ONIBUSらしく”記念になることをしたいと企画したのが、森の改善でした。コーヒー屋なのにコーヒー関係ない!のですが、森のために何かポジティブなアクションを起こすことは、私たちがスペシャルティコーヒーを扱う上で大切にしてきた農や循環への意識や、サスティナビリティへの想いを素直に表現できると考えたからです。10周年にふさわしいワクワクする企画です。
特にこの数年は、栃木県の「森林ノ牧場」(奥沢店のソフトクリームでお世話になっています!)や、静岡県川根本町のスギ林(自由が丘店の内装に使わせてもらいました!)など、森に携わる人と出会い、森に入らせてもらう機会が多くなりました。出会う人々は、森のポテンシャルを感じ、畏怖の念を抱き、循環と共生を願っています。お話を聞いたり森での時間を体験したりするうちに、健全で豊かな森の姿とはどんなものかを実感と知識をもって描くことができるようになってきました。そして健康な森が、水や生命、豊かな生態系を育んでいることも、森での五感体験から強く感じ取ることができました。
最初は、森の日照確保や木の生育のために木を間引く「間伐」を企画。シブすぎるアイディアでONIBUSチームも静かに盛り上がっていました。結果として、間伐ではなく、「植樹」をすることになったのですが、これもただ単に記念に樹を植えるということではありません。自然の地形を読みとり、土の中の環境を整え、水と空気の流れを作ることから始まり、その苗木がどう育って森にポジティブな変化をもたらしていくかまでを見守るのです。「連綿と続く森の営みに参加しながら、これからの次世代の森の姿や土の中、下流の地域までを見据える」。壮大でありながら違和感なく心に染み込み、また、お店づくりにも通じるものがそこにはありました。
人の手で自然を取り戻す「水源の森再生プロジェクト」
【写真】山梨県小菅村・水源の森再生プロジェクトの舞台となる森(2021年10月撮影)
植樹の舞台になったのは、山梨県小菅村。縁あって年に数度ほど通う場所です。多摩川の源流域である小菅村は人口700人ほどの小さな村で、昔からのわさび田に、数年前にはクラフトビールの「FAR EAST BREWERY」の工場もでき、綺麗な水を資源とした産業があります。
小菅村は山梨県でありながら、明治時代から東京都により水質保全のための水源林管理活動が行われていました。戦後、人工林化が進み、スギやヒノキなどが植えられた結果、山は多様性を失い、また自然の力を抑え込むような開発で山の涵養力(=水が自然に染み込み蓄えられる力)が低下しているという問題を抱えています(このような動きは小菅に限らず、日本全国で発生しています)。
ここでは”源流大学”という団体が主催する「水源の森再生プロジェクト」という講座を行っています。「自然は自然の力だけで保たれていて、不可逆的」自然に対して私はそんなイメージをもっていました。しかし、ここで教わるのは先人の智慧を踏襲し人の手で豊かな自然を取り戻すための方法です。NPO法人”地球守”の代表・高田宏臣さんによる指導の元、スギやヒノキといった針葉樹林の手入れをし、広葉樹も自ら育つ土壌への改善と、森の涵養力を取り戻すよう技を施していきます。この取り組みを通し、山や森の見方と改善方法を伝え、様々な土地で土壌改善ができる人材を育てることも意義のひとつです。ONIBUSチームからは各回数名が参加させていただきました。
植樹の準備〜マウンド作り〜
【写真】マウンド作りの様子(2022年4月撮影)
今年4月。自由が丘店オープンの興奮も冷めやらぬ中、準備となるマウンド作りの講座に参加しました。マウンドとは、植樹の際に広葉樹の苗木のベッドとなる場所のこと。地形を読み取りながら水と空気の流れを土中に導く作業です。その土地の落ち葉や、剪定した枝、炭やくん炭を使い、水の浸透や微生物の住処とネットワークを土中に張り巡らせていきます。ふかふかでしっとりした、菌糸の絡み合うマウンドを作ることで、苗木や自然に落ちたどんぐりは流亡することなく、その根を深く地中へと伸ばしていくことができるそうです。
斜面で谷と尾根という起伏を読んだり、水が浸透したり出てきたりする場所を考えるのは素人には難しかったです。ですが、1本の木を見て、森全体を見て、人の手が加わることで森に豊かさを取り戻すことを感じるのは実に気持ちが良いものです。慣れない道具を使いながらも、気がつくと朝から夕方まで無心で作業をしていました。
いよいよ植樹!
【写真】植樹に用意された様々な広葉樹の苗木(2022年5月撮影)
前回のマウンド作りから約1ヶ月半。ABOUT LIFE COFFEE BREWERS渋谷一丁目のオープンの興奮もやっぱり冷めやらぬ5月下旬に開催された講座ではいよいよ植樹を行います。植樹会には小菅村の子供達も参加していました。コナラやシラカシ、カツラ、モミジなど18樹種、約750本の苗木がみるみるうちに前回作ったマウンドに植えられていきました。育った時の木の背の高さや日の当たり具合を考慮したり、山を歩いたときに楽しくなるよう花が咲くものは道の近くにしてみたりと、数年後の姿を思い浮かべながら植える場所を決めていきます。マウンドはふかふかした落ち葉で覆われているので、少しだけ穴を掘ったらポットから出した苗木を置いて、指で優しく押し込むだけ。ここでも土への浸透と、根の行く先を意識します。
植樹と平行し。スギの皮むきを施してゆっくりと枯らしていく”皮むき間伐”の作業も行われました。皮を剥くと樹木は水分を吸い上げることができなくなるそうです。伐り倒すのではなく、ゆっくり枯れさせることで、少しずつ枝葉が落ちて地表に日光が当たるようになっていきます。山の環境を急激に変えず、伐採するときまでには乾燥して軽くなっている。山の営みは知らないことだらけ。でも、とても理にかなっています。
【写真】植樹の後の森。地表には苗木が。(2022年5月撮影)
ONIBUSの10周年記念植樹は、このプロジェクトに参加する形で実現させることができました。数百本の苗木が植えられたので、実際にどれがONIBUSチームが植えたものかわからなくなっています。しかし、みんなで作ったマウンドが、植えた苗木が、豊かな森を取り戻すための一歩になっているのは確かです。数ヶ月経った今、少しは大きくなっているでしょうか。ONIBUS10周年の年に植えられた木やどんぐりの芽が、どう育っていくのか。これからも森の変化を見守りたいです。
那須での実践
【写真】ONIBUS COFFEE那須店のある施設でのボサ置き実践(2022年8月撮影)
小菅での講座で得たノウハウを活かし、ONIBUS COFFEE那須店のあるGOOD NEWS施設内の森の手入れを実際にしてみました。
那須GOOD NEWS内の森は多様性が残されている一方で、笹やツルなども強く、雨水は表土を流れています。土地の表面が乾燥気味だったり、表土の流亡があったりすると、どんぐりからの新しい芽(実生)が出にくい環境になります。また、芽が出たとしても、笹などの地表から浅い所に張る根により、成長が阻害されてしまいます。
森の中に建物を作ったことで、少なからず土地に負担をかけているのも実感します。森の多様性や涵養力を取り戻すのは、ここで働く者の責任として取り組んでいくべき課題だと感じました。まずはGOOD NEWSチーム一同で施設定休日に笹を刈ったり、斜面にマウンドを作ったり少しずつできることからはじめています。「もっと気持ちの良い場所を作っていきたい」「そのために、本来の森の多様性と循環を取り戻したい」豊かな自然を取り戻すために、いろいろ知らなくてはいけないこともたくさんあります。
まとめ
思わず深呼吸したくなるような森に入ったことがありますか?森に詳しくない人でも、多様性があることや、空気や水の流れ、新鮮な香りを感じ取ると無意識のうちに心地よさを感じるそうです。「自然と親しむ」とは、深呼吸をしたくなる場所から発生する願いのようにも思います。土に触れ、微生物や土中の見えないものに思いを巡らせながらそんな願いを絶やさずに持ち続けていきたいです。
このONIBUS10周年の取り組みを通じて変わった森の見え方や付き合い方は、農作物や水の恵みを享受しているコーヒーショップの在り方やバリスタという職業にも必ず活かされると思いました。今、私がいる那須で取り組むべきことも見えてきたような気がしています。大きな自然と向き合うときに、人の無力感を覚えることもあります。ですが今は、それを超えるような使命感にワクワクしています!
機会を与えてくださった、こすげ源流大学のみなさま、地球守のみなさまに感謝いたします。これからもよろしくお願いいたします。