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ケニア訪問レポート〜美味しさをつなぐつくり手たち〜

2025年の最初の生産国訪問でケニアへ行ってきました。しっかりした果実感でファンも多いケニアコーヒー。この”ケニアらしい味わい”がつくられる裏側や、日本に届くまでどんな道のりを辿っているのか、現地での情報を交えながらお伝えします!
ケニアってどんな国?
ケニア共和国は東アフリカに位置しています。コーヒーの産地として馴染みのあるエチオピアや、ウガンダ、ソマリア、南スーダン、ウガンダが隣接しています。コーヒーベルト*に位置していて、今回訪れた際は日差しも強く少し汗ばむような気候でした。
今回は、日本から韓国・エチオピアを経由してナイロビにあるジョモ・ケニヤッタ空港まで移動しました。時間にして約20時間ほどです!。
*コーヒーベルト:赤道を挟んだ北緯25度から南緯25度の地帯。コーヒーの栽培に適した気候や土壌をもつ。
農業はケニアの主要産業です。紅茶や切り花も輸出されていて、移動中に茶畑を横切ることもありました。他にも道端でフルーツを販売している人がたくさんいて、農家の多さが感じられました。コーヒーに関しては「ケニアコーヒー局(Coffee Directorate)」という法定団体がコーヒー業界の監督をしています。
ケニアのコーヒー生産
今回の生産国訪問では、ナイロビ市内にある輸出業者Dormanのオフィスにてカッピング・コーヒーの選定と、ニエリ市内の水洗工場を視察してきました。遠いアフリカのケニアから日本の私たちの手に届くまでは、たくさんのステップがあります。どんな道のりをたどってきているか簡単に説明したいと思います。
①農家/農業協同組合:
まずは農家の話。ケニアのコーヒーは、規模の大きな単一農園と、農業協同組合(FCS/Farmers Cooperative Societ)という小規模生産者が所属する組合によって生産されています。小規模生産者が構成する組合は、農地の75%を占めている一方で生産量の50%未満といわれています(KCPA)。小規模生産者が所有している土地の大きさは平均1~2エーカーと聞きました。
②水洗工場:
農家が収穫したコーヒーチェリーは、水洗工場(ケニアでは「ファクトリー」と呼ばれることが多い)に運ばれます。水洗工場は組合が管理しています。例えばわたしたちの取り扱っていた「カグモイニ」というコーヒーは、ムガガ農業協同組合が管理しているカグモイニファクトリーで水洗処理されたものです。
ケニアのコーヒーはほとんどがウォッシュトプロセスです。ナチュラルプロセスは管理の手間やコスト・時間がかかるためポピュラーな方法ではないですが、業者やバイヤーの依頼でナチュラルプロセスを手掛けている組合もあるそうです。
③ドライミル:
ファクトリーでの精製処理・乾燥を終えたコーヒーはドライミルという場所に運ばれます。ここではパーチメント(コーヒー豆/種子をおおう薄茶色の殻)の除去、グレーディング、パッキングなどが行われます。
④オークション:
ドライミルでの加工・パッキングを終えるとようやくオークション出品が可能となります。ケニアのコーヒーの大半が、ナイロビコーヒーエクスチェンジというオークションで取引されています。組合が仲介業者を通して出品したコーヒーを、現地の輸出業者(商社)などがオークションで買い付けます。
⑤輸出・輸入:
現地の輸出業者がオークションで買い付けているものなどから、日本の商社などがさらに購入ロットを選定し輸入します。今回のONIBUS COFFEEの買付では、日本の商社に同行し、買付ロットの選定を行いました。
このような工程を経てONIBUS COFFEEに、コーヒーそしてみなさんにケニアコーヒーが届いています。
コーヒー生産を支える仕組み
工程や作業現場を実際に目にして、各セクターでの役割分担が明確で厳しい品質管理が行われていることに改めて驚かされました。次に、今回訪ねた場所を一部ご紹介します。
組合・水洗工場
Barichu FCS(バリチュ農業協同組合)
バリチュ農業協同組合はGaturiri、Gatomboya、 Karindundu、Karatinaという4つの水洗工場を管理しています。その中で訪れたGatomboya水洗工場では責任者のマイナさんが話をしてくれたのですが、今回の収穫時期は例年の半分しかコーヒーチェリーの持ち込みがなかったそうです。コーヒーの価格変動やその他コストの関係で、支払い条件のいい他の組合に人がながれていってしまったのが原因とのこと。また戻ってくるかは状況次第らしいですが、この水洗工場や組合がエリアの農家といい関係を保ってくれたらと思います。
Gathaithi FCS(ガタイティ農業協同組合)
ここには、所属しているメンバーに農園管理の方法を実践で教えるモデル農園が併設されています。農園内には複数のコーヒー品種(SL34、SL28、Ruilu11、Batian)が植えられている他、マンゴー、バナナ、マカダミアナッツ、アボカドも混在していて、これらはシェードツリーとして一般的です。
水洗工場では持ち込まれたチェリーの色を見て選別し、基準に満たないものは受け取りをしていないそうです。そして基準に合ったものだけをパルピングマシンや水路を通してさらに比重で選別しています。
このような組合には1,000人以上のメンバーが所属していてトレーニングも実施しています。各組合にいるトレーナーが各農家を回って指導をしたり、わたしたちに同行してくれていたCMS*の農学者なども指導をするそうです。
*CMS/Coffee Management Service:ケニアおよび東アフリカ地域のコーヒー部門で幅広いサービスを提供する大手農業サービス プロバイダー
ドライミル
ドライミルはKofinaf mill とKirinyaga county millを見学してきました。持ち込まれたパーチメントには管理番号が割り振られ、最初の品質チェックから倉庫での一時保管、精製、パッキングまでを追跡することができます。
持ち込まれたパーチメントや処理後のコーヒーが並ぶ姿は圧巻!Kofinafドライミルでは1時間当たり、なんと8トンのパーチメントを処理しているそうです。
QCチームがグレードごとの品質チェックをしていて、欠点豆のみを集めたサンプルもありその割合や状態などもフィードバックをしているそうです。
すべての工程が終わると、持ち込まれたパーチメントのグレーディングの詳細や価格などがわかる書類が渡されます。この情報をもってオークションに出品することができるようになります。
輸出商社
現地の輸出商社「Dorman」にも訪問しました。Dormanはケニア国内でトップ5に入る程の規模といわれています。ここで、彼らが私たちの買付用に選定してくれたコーヒーをカッピングしていきます。
オークションなどで買い付けたコーヒーが保管されている倉庫を案内してもらいました。この中には60kgサイズの麻袋が約100,000袋保管されているそうです!コマーシャルやその他規格のものもあり、約95%が国外輸出用です。倉庫内には生豆の重さやサイズなどを選別するグレーディングの機械があり、工程の最後ではハンドピックも実施されてます。
敷地内の焙煎所には60kgと90kgサイズの焙煎機が2つあり、焙煎豆だけでなく、インスタントコーヒー、ドリップバッグ、クリームパウダーなどの商品も製造しています。
ケニアコーヒー産業の課題
このように長い工程に携わる人たちが、品質・トレーサビリティを管理していることで高品質のコーヒーを手に取ることができます。コーヒーがどんな過程を経て手に届いているか想像してもらえたでしょうか?滞在中はこの壮大な仕組みに驚かされつつも、現地の人から聞く課題も感じました。
制度改革
2022年に施行された「Crops(Coffee)Regulations」という新規性から、ケニアではコーヒー取引の収益が農家に直接、かつ迅速に還元されることを目的とした制度改革が行われています。新しいルールは複雑で全貌の把握がなかなか難しいのですが、現地で聞いた話によると、現段階ではメリットよりも混乱による弊害が大きいとのことでした。本来、農家がより早く利益を得られることを目指した制度のはずが、実際は改革前よりも支払いが遅くなっているケースもあるそうです。改革により操業を停止した会社もあれば、新しく参入できる会社もあり、セクターや立場によって意見が様々でした。
コスト増や気候変動
Dormanの担当者から「例年より雨が早まったから、いいカップのものが多くあるよ」と言われて、気候変動の影響も大きいのだろうか、と気になっていました。同行をしてくれた農学者(Coffee Management Serviceという企業に所属)に尋ねると、「気候変動の影響はあるけれど、それよりも管理費や税金などコストの上昇の方が問題になっている」とのことでした。
エリアによって気候変動の影響も違うかもしれませんが、制度改革による混乱やコストの上昇が続けば、コーヒー生産から離れる人が増えていくのではないか心配が募ります。
つくり手の存在
今回の訪問で、コーヒー生産に携わる数多くの「つくり手」と出会うことができました。私はケニアのコーヒーを飲むと、明るく力強い酸味や味わいを感じます。そんな素晴らしいコーヒーを支えているのは、品質に対する努力を各セクターの一人一人が重ねているからだと思いました。Dormanに30年務めるディレクターのケネディさんに、彼が大切にしていることを聞くと「Quality and integrity(品質と誠実さ)」と力強く答えてくれました。
焙煎と抽出をするという点で、わたしたちもつくり手の一端を担っていますが、課題を抱えながらも高品質のコーヒーを生み出してくれている産地の人たちがいてこそ、みなさんにコーヒーを届けることができています。 「一杯のコーヒーにどんな背景があるのか、より多くの人に伝え続けたい、そして遠い生産国の課題に対してみんなで何ができるのかを考え、取り組みを続けていきたい」と感じる生産国訪問でした。
text and photos by Hana Hachisuka