2025.10. 2
  • サステナビリティ

コーヒーにまつわる”透明性”について考える

コーヒーにまつわる”透明性”について考える

 コーヒーショップで飲むコーヒーに、自動販売機で買うコーヒー飲料、スーパーで買うお決まりのコーヒー豆、雑貨店にある可愛いドリップバッグ。さまざまなスタイルでいつでもどこでもコーヒーが飲めるようになり、コーヒーはより身近な存在になっています。 

 しかし当たり前に手に入るものほど、その背景に思いを巡らせるきっかけは少なくなってしまうもの。コーヒー豆がもともとはコーヒーチェリーという果実の種子だということも、あまり知られていない事実かもしれません。

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 『美味しいコーヒーは素材がすべて』これは揺るぎません。 コーヒーのクオリティは、料理と同じように、いかに良い素材=コーヒー生豆を調達できるかにかかっています。ONIBUSの焙煎アプローチや抽出技術は、素材をより美味しくするためのものではなく、素材のポテンシャルを最大限に近い状態で届けるためにあります。

 では、良い生豆とはどのようなものなのでしょうか。

 品質、価格、希少価値、コーヒーショップ毎に大切にしている要素はさまざまですが、ONIBUSには”良い生豆”を選ぶ基準があります。

  • カッピングスコア85点以上のロット
  • 労働環境において、児童労働・強制労働がないこと
  • 環境負荷が少なく持続可能な農法をしていること(減農薬・有機農法、アグロフォレストリー、水の調達・適切な排水処理等) 
  •  生産者や中間業者と綿密なコミュニケーションがとれること 

 そしてONIBUSで存在感を強めているキーワードがあります。『透明性=トランスペアレンシー』です。つまり、誰がどこでどのようにコーヒーを作っているのかわかるということ。物理的なものだけではなく、どれくらいの対価が生産者に支払われているのか、働いている人たちはどんなコミュニティにいるのかといったような経済的・社会的な透明性もとても大事なことだと思っています。

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 ONIBUSは可能な限り生産国を訪ねるようにしています。しかし当初から「透明性」を意識していた訳ではありませんでした。「コーヒーってどうやって作られるのだろう?」という純粋な興味から始まったものが、いつしか組織文化となり、アイデンティティになっていったのです。

 毎年のように訪れるのがルワンダとホンジュラス。エチオピア、ケニア、グラテマラ、エルサルバドル、ブラジルにも行きました。そして2025年にはコロンビアとペルーを初めて訪問しました。これでONIBUSが取り扱っている全てのコーヒー生産国を訪れたことになります。目標にしていた生産国100%訪問が実現しました。

 これらのコーヒー生産国は、日本を出発してから1日以上かけてたどり着くこともしばしば。ローカルの街並みや食べ物を楽しみ、人々の暮らしや文化を垣間見、時に体調を崩しながらも、生産者の方々や輸出業者などコーヒー産業に携わる人々と会います。農園や加工施設を案内してもらいながら、同じ時間を過ごすうちに、彼らの彼女らの惜しみない手間ひまや創意工夫に感服し、どのような想いでコーヒー生産に携わっているのかを知ります。

 児童労働や強制労働がないこと、自然環境に配慮した栽培をしていること、利益の還元や社会保障などによって生産者の暮らしが守られていることも、実際に生産国訪問を重ねていく中でONIBUSの調達の約束事になっていきました。

 秘境とも言えるような場所にも、人々の営みがあり、コーヒーがやってくる道のりの長さを実感すると、日本にいる私たちの日々の暮らしにコーヒーが溶け込んでいることが改めて奇跡のように感じられます。

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 先日、ホンジュラスからアンヘルさんとデニルソンさんが八雲店に来てくれました。観葉植物になっているお店のコーヒーノキの手入れ方法もアドバイスしてくれる、本当にコーヒー愛に溢れたお二人です。アンヘルさんは、輸出業者SAN VICENTEでクオリティコントロールを担当する傍ら、自らも生産者としてサンタバルバラ地域のスペシャルティコーヒーの発展に貢献しています。ONIBUSが長らく取引をしている頼れる人物です。

 そこでアンヘルさんが口にした言葉がとても印象的でした。

 「生産者がいくら良いコーヒーを作っても、それを評価して買ってくれる人がいないと、他のものと混ぜて安いマーケットに流通させるしかなくなってしまう。だから自分たちのコーヒーをスペシャルティとして買ってくれる日本のバイヤーやロースター、それを飲んでくれる日本の消費者たちにとても感謝しています」

 この発言を聞いて私は感激していました。

 一生懸命美味しいコーヒーを作り、それが消費者に1杯のコーヒーとして届くまでをイメージしていることーー彼らのコーヒーが素晴らしい品質であることの何よりの秘訣であるように思いました。そして、ONIBUSが透明性を大切にしているからこそ、こうして生産者の言葉を聞くことができたし、共感と尊敬の念が深まります。そしてその想いを1杯のコーヒーに込めて消費者の皆さんに届ける責任も再認識します。

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 コーヒーを愛飲する人が増え、楽しみ方が多様化する一方、2050年問題とも言われるように、コーヒー産業には気候変動や社会情勢の変化によるリスクがつきまといます。 

 コーヒーを飲むまでの登場人物は、生産国の農家たちとコーヒーショップと消費者だけではありません。クオリティをチェックする人や生豆をパッキングする人、麻袋をコンテナに積む人、船を操縦する人、輸出入手続きをする人、倉庫を管理する人、トラックでロースターへと運ぶ人、私たちの元へ来るまでにもたくさんの人を介しているのです。

 ”コーヒーにまつわるものの透明性を高めていくこと”は、ONIBUSとして、この大きな課題に対抗するアンサーだと思いを強くしています。

text by Mai Yamada

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