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ルワンダコーヒー買付記 〜Vol.2 コーヒーを生産する人・提供する人・消費する人をフェアに繋ぐために〜

ルワンダコーヒー買付記 〜Vol.2 コーヒーを生産する人・提供する人・消費する人をフェアに繋ぐために〜

前半では、ルワンダのことや、各エリアでのウォッシングステーションの特徴をご説明しました。
後半は、ルワンダのスペシャルティコーヒーを取り巻く環境のお話です。

Women Empowerment

Women Empowerment

ルワンダではあらゆる場で女性の社会進出が進んでいます。国会議員の女性比率は60%を超えています。国による男女の平等を数値化した「Gender Gap Index」2023年の最新の報告では、ルワンダは146カ国中12位と高順位。前年よりも順位を落としたものの、アフリカ諸国ではナミビアに次ぐ2位です。日本は125位なので、残念ながらその差は埋め難いものがありそうです。
実は、この女性進出のムーブメントの背景には1994年に起きた民族紛争による大量虐殺という悲しい歴史があります。犠牲者の大半が男性だったことや、この出来事が民族・性差など、あらゆる差別をなくすことに繋がり、女性が進出するきっかけになったとも考えられています。想像を絶するような悲劇を乗り越えて、ルワンダは「アフリカの奇跡」と呼ばれるまでの経済成長を成し遂げました。それを支えているのは、スペシャルティコーヒー産業であることは、前回のブログでも書いた通りです。
私が今回の滞在で出会ったルワンダのコーヒー関係者の中にも、組織のトップや、コーヒーの品質をチェックするQグレーダー資格を有した方、ウォッシングステーションで働いている方など、多くの女性がいました。ですが、過去においてはコーヒー業界は男性のものという空気があったそうです。その空気を変えたいという機運を支えているのが、20年以上前に設立されたRwanda Women’s Coffee Alliance(RWCA)という団体です。RWCAは「ジェンダーの差をなくしていくことが、コーヒー生産だけでなく、福祉や家庭、地域社会の発展に繋がる」と信じています。今では、女性だけが生産に携わった「Women's Coffee 」というロットも確立し、付加価値のあるブランドとして販売しています。Women's Coffeeの収益は女性支援のプロジェクトに充てられていて、「洗える生理用品を作り、女子学生に配布する」というのもその一環です。ルワンダでは、経済状況や環境により、生理用品を入手できず、学業に専念できなくなってしまう若い女性がいるそうです。このプロジェクトは、性差による阻害をなくすという社会課題の解決に貢献するものでした。この取り組みを聞いて、感激する一方、日本のジェンダーの理解度の未熟さを痛感せざるをえませんでした。
私自身、コーヒー業界に身を置く女性の一人として、ルワンダの女性たちが活躍している様子や、「性差ではなく個人の才能を活かす」という意味で女性進出を後押しする社会を知ったことに、とても勇気づけられました。

これからのルワンダ課題と期待

これからのルワンダ課題と期待

「女性進出」「スペシャルティコーヒー産業が支える経済とコミュニティ」と並べると、ルワンダのコーヒー生産には明るい未来が約束されているようです。しかしながら、課題点を感じることもありました。
まずは、気候変動。ルワンダだけに限らず、気候変動は農作物の育成に好ましくない影響を及ぼします。今期のルワンダでは、コーヒー開花時や実をつけ始めた時期に雹が降ったそうです。収穫量が下がる要因の一つとなりました。また、犠牲者も出たほどの洪水被害も起きています。農園に直接大雨が降らずとも、インフラが整備されていない農村部では、人の行き来や流通に遅れが生じます。
そして、肥料不足。ルワンダではNational Agriculuture Export Development Board(NAEB)という国の機関が、農家が持つコーヒーツリーの本数のデータを基に、コーヒー生産用の肥料を配布しています。しかし、このデータの精度が正確でなかったり、ウクライナ問題での影響で肥料の価格が高騰したりと、この数年は慢性的に肥料不足が続いているそうです。また、コーヒーの生産に適した丘陵地では、土壌の流亡による土中の養分低下や有機物の減少といった劣化も現れています。痩せた土は、コーヒーの味わいにも影響を与えます。このままでは、良質かつ収穫量も安定したコーヒーを作り続けるのは困難になる懸念が生じます。
ウォッシングステーションや仲買人によるチェリーの買取価格競争も問題です。チェリーの買取最低価格は毎年決められていて、昨年と去年は1kgあたり410ルワンダフラン(約52円)でした。ところが、生産量を確保したいウォッシングステーションが競い合った結果、買取最低価格の3倍以上もの値がつけられることがあったそうです。農家の収入が増えるのなら良いのかもしれませんが、資源を奪い合ったり、格差が拡大したり、原料の高騰の影響で生豆の買い手がつかなくなることは、長い目で見た時にプラスには働かないでしょう。買取競争を問題視したNAEBは、今年は高値をつけたウォッシングステーションに一定期間営業停止のペナルティを与えることにしたそうです。
最近では、長年使われていた「ゾーニング」というコーヒーチェリーの売買に関するルールが廃止されました。これは、エリアを分けてチェリーを持ち込むウォッシングステーションを決めるというものでしたが、このルールがなくなると、農家や仲買人はどこにでもチェリーを持ち込むことができるようになります。これにより、どのような影響が出るのかはまだわかりません。競争で品質がアップするような良い影響も期待されますが、価格競争に飲まれてしまいそうなウォッシングステーションもでてきてしまうような気もします。

これからのルワンダ課題と期待

一方、明るい兆しだと感じたのは、国内消費の活発化です。コーヒー生産国では、外貨獲得のため、高く売れるような良い品質のものほど海外に出荷しています。そのため、国内では質の劣るものを消費するか、もしくはコーヒー自体が国内ではほとんど流通しないこともあります。ルワンダでも、数年前まではコーヒーが飲めるのは都市部のホテルだけで、しかも品質は低いというのが普通だったそうです。しかし、今回訪れた首都キガリにはおしゃれなコーヒーショップが何軒もありました(残念ながら寄る機会はなかったのですが)。キガリから地方に向かう道沿いにも、休憩所やお土産屋さんに併設されたコーヒーショップがあり、テイクアウトしていく現地の人や観光客の姿を見かけました。この旅でお世話になったドライバーのフレッドさんも、「最近はコーヒーは家でも飲むし、コーヒーショップにも飲みに行く」と言っていたので、コーヒーは確実にルワンダの人々に浸透しているのだと思います。

前回の記事でも書いたように、今回訪れたウォッシングステーションにもカフェが併設されている場所がありました。収穫期に限らず、一年を通して営業できるカフェは、バリスタという新しい雇用を作ることができます。また販路が増えれば、もっと安心してコーヒーを生産できるようになることも期待されます。焙煎哲学やバリスタ技術には、まだ伸び代があるようですが、ルワンダ国内で美味しいコーヒーが飲めるようになるのは、そう遠くない未来だと思いました。

ルワンダ訪問を経て

ルワンダ訪問を経て

ONIBUSが掲げる「コーヒーで、街と暮らしを豊かにする。」というビジョンには、「コーヒーを生産する人・提供する人・消費する人をフェアに繋ぐ」というテーマが込められています。今回のルワンダ滞在はこの意味に近づくきっかけになりました。
日本から丸1日かけて行き、さらに4WDで数時間かけてコーヒー農園に向かう赤土の山道は、信じられないほど揺れます。その果てに目の前に広がった、丘の上にずらりと並んだアフリカンベッドの光景は、憧れていた風景そのもので、美しすぎて思わず涙が込み上げてきました。ウォッシングステーションの方々の精製方法の説明は感心することばかり。現地の人もみんな優しくて美しい。一方、劣化していく土壌のことや、個人では抗えない国勢や気候変動によってダイレクトに影響を受ける生産者のこと、生産国から日本に来るまでのカーボンフットプリントなどの現実も受け止めざるを得ません。

私はコーヒーの仕事に携わって10年目にして、今回初めてコーヒー生産国を訪問することができました。出発前は、「行ったらどんな気持ちになるんだろう?」と緊張していました。そして、約1週間の滞在を経て、コーヒー生産の現場に対するモヤモヤや課題感も一緒に持って帰ってきました。「農園に行った!感動した!楽しかった!」で終わらなかったのは、コーヒーに携わっている一人として、前向きな責任として捉えています。
帰ってきてからは、コーヒーとの向き合い方が変わりました。生産者が手間暇をかけて育てた、遠い国からやってきた選りすぐりの素晴らしい一杯。その価値を今まで以上にちゃんとありがたがる。そして、ONIBUS COFFEEを訪れるお客さんにもそう思ってもらえるように、美味しさと、ストーリーを伝えていくことが、コーヒーで人と人を”フェアに”繋ぐ第一歩だと感じています。

Text and Photo by Mai Yamada