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蛇崩の謎多きコーヒーロースター「Sniite」〜ONIBUS OB訪問!Vol.1〜
Sniiteオーナー神戸(左)、スタッフ源田(右)
筆者が現在マネージャーを勤める渋谷のABOUT LIFE COFFEE BREWERS(以下ALCB)。ALCB初代のマネージャーであり、東京のコーヒーシーンを引っ張っていた神戸渉さん。5年間勤めたONIBUSを卒業後、2020年自身がオーナーとしてコーヒーロースター「Sniite(スニート)」をオープンしました。
中目黒、祐天寺、池尻大橋のちょうど間、蛇崩(じゃくずれ)にあるSniiteは駅から離れているにも関わらず、連日多くのお客さんが通っています。
下準備期間を含めた構想から約1年半、コーヒーロースターSniiteのオーナーである神戸渉さんにインタビューを敢行しました。
ONIBUSの卒業生がどのような道に進んでいるのか、詳しくご紹介していきます!
ONIBUS COFFEEでの始まり
文字盤に光る「sniite」機械好きの神戸さんらしい。
田崎:今日はONIBUSで働くきっかけから現在のSniiteの魅力まで、色々とお尋ねしたいと思っています。早速ですが、今更すぎて聞けなかったのですが、神戸さんがオニバスで働き始めたきっかけを教えて下さい。
神戸:はい、よろしくお願いしますー。当時、厨房機器の業者として働いているときにオニバスのオーナー篤史くんとポップアップイベントを通じて知り合いました。その後、うだつの上がらない生活をしていたときに、渋谷の新しいコーヒースタンド(現ALCB)を立ち上げるということでオニバスに参画しました。
田崎:ポップアップがきっかけだったんですね。そして現在のALCBへ。
神戸:そうそう。そこから5年間ALCBで働きました。3年目くらいから焙煎もして、コーヒー豆の産地であるグアテマラにも2度訪れました。そこで出会った豆の「アンティグア」はを今でもSniiteで使用しています。
ABOUT LIFE COFFEE BREWERSでの日々
アメリカのシアトルにて行われたマルゾッコカフェでのイベント。ドイツのBONANZAと一緒にコーヒーを提供。
田崎:ALCBには近隣のオフィスの方々やコーヒーラバーも多く訪れていましたが、それ以上に海外のお客さんとの出会いがたくさんあったそうですね。
神戸:そうだね。海外の観光客がふらっとコーヒーを飲みに来て「どこから来たの?」という会話から始まり、話していると実は、「有名コーヒーロースターの中心人物だった!」なんてことは日常茶飯事でした。
当時は多くのゲストバリスタイベントもあって、オーストラリアからはArtificer coffeeやMecca、Sevenseeds、ドイツからはBONANZA、アメリカからはHeartなど数えたらキリないほど、世界的なコーヒーマンがALCBで普通にコーヒーを淹れていました。多くのゲストバリスタイベントで世界と繋がった経験などとても楽しかったし、常連のお客様の会話なども含め、常に刺激に溢れていて飽きることがなかったです。
田崎:コーヒーで世界が広がった瞬間を肌で感じられました。さりげなく海外アーティストも来たりしてビックリしたこともありましたね。(笑)
神戸:あったね。(笑) ほんとにさりげなく来るから本当にびっくりするよね。
「Sniite」という名前の由来
店頭入り口によーく見ると見つけられる「Sniiteロゴ」
田崎:濃密なALCBでの5年間の後、2020年に中目黒、祐天寺、池尻大橋のちょうど間、蛇崩(じゃくずれ)という場所にコーヒーロースター「Sniite(スニート)」をオープンされましたね。「Sniite」という名前は造語だと思いますがどういう意味が込められているのでしょうか?
神戸:「Sniite」はとある旅の途中で見つけたことがきっかけです。ドイツベルリンのBONANZAと一緒にアメリカシアトルのマルゾッコカフェでイベントをしたあとに、一緒に夏休みを取って帰りにカナダのバンクーバーに寄りました。
バンクーバーって移民が多くて自由、寛容な雰囲気。ちょっとメルボルンぽいところがあって。
田崎:バンクーバーはシアトルから近いですね。楽しそう。
神戸:泊まったホテルからほど近い場所にとある医療施設があって。日本ではあまりイメージしにくいと思いますが、その施設は薬物依存症患者が衛生的に安全な環境下でドラッグを打てる公共の場所で。そして、薬物依存症の患者を更生させる為の施設であり命を救うための施設でした。
その施設は「Iinjection Site」という名前で、そのスペルを組み替えて名前を作りました。響きも良く。
最悪な日をちょっとだけでもマシになって帰れる。そんな場所にしたいという想いを込めて「Sniite」と名付けました。
地元の方が多い「蛇崩」という立地
常連さんの展示DMについてお客さんと話す神戸さん。コーヒー以外の様々なカルチャーが自然と広がっていく。
田崎:Sniiteのある蛇崩は東急東横線・祐天寺駅から徒歩約10分ほど。私自身、自転車で移動の時には通ったりしますが、どんなエリアですか。
神戸:最寄駅はどこも遠いし、お店の目の前はバス停です。「古き良き商店街が立ち並ぶ」そんな場所だけど住宅が多く、長年住んでる地元の方がとても多い印象です。「都心でバリバリ働く」って人が多いイメージです。
田崎:神戸さんと同世代も多いように感じます。
神戸:確かに同世代の地元の人も多くて、立ち話に花が咲くこともしばしば。距離感がちょうどいいのかな。また、家族連れも増えてきています。
田崎:インタビューをしている今でも家族連れのお客さんが多く来ていますね。意外です。
神戸渉が作り出す世界観
カフェとして見たことのない壁面。客席からも見られます。
田崎:神戸さんはクリエイティヴィティ(創造力)やオリジナリティ(独自性)をとても大切にしていると一緒に働いていたときに感じていました。
神戸:実は、サードウェーブ的なコーヒーの「見せ方」に飽きてきたところもあって、とにかく「既視感がないもの」を作りたいと思っています。(既視感とは、実際に一度も体験したことがないのに、既にどこかで体験したことのように感じる現象)
コーヒーには自分の好きな要素が揃っています。原料を探しに旅に出る。その原料を焙煎する。焙煎は理論、技術、そして機械。さらには抽出も自分のブランドをどう見せるかというブランディング的な側面もある。そう考えると色々な要素を混ぜ合わせてどう発信していけるか。それを自分なりに追求していくとオリジナリティ・クリエイティビティに辿りつくのかもしれないです。そういった事を考えるのもとてもが楽しくて。
田崎:とてもユニークですね。「コーヒー全ての要素に好きが詰まってる」、ナイスフレーズです。神戸さんにとってのオリジナリティはどこから来ていますか。
神戸:ミーハーなんじゃないかな?(笑) ミーハーの言い訳として、裏付けとも言えるけど、色々なものを試して取り込んで、のめり込めたことじゃないでしょうか。それが自らのオリジナリティに結びついていると思います。
「Sniite」が提供するコーヒーとデザイン
あまり見ないグレーカラーに千切れたシールと気になる丸シールが印象的。
田崎:Sniiteの焙煎はONIBUSの時とだいぶ変えている印象ですね。
神戸:そうですね。まず、焙煎機はデードリッヒ12kgを使用しています。焙煎に関してはオニバスと比べても結構レシピを変えています。焙煎してQC(クオリティコントロール)してさらに微調整をしていく。方法は同じだけど、違うアプローチを試しています。。
また、オニバス同様にコーヒーの産地も訪れたいけど、状況が状況なだけになかなか出来なくて、悔しいですね。
田崎:なかなか我慢が続きますね。豆のパッケージもかなりユニークですが、どのような意味が込められているのでしょうか。
神戸:豆パッケージのデザインは「旅と音楽」に繋がっています。パッケージのシールはスーツケースについてるタグのイメージ。「旅すると一緒にボロボロになってく」。そういうイメージで端を手で千切っています。
田崎:だからこれは千切れているのですね。納得。そしてこの丸シール「音楽」ということはもしかして...。
神戸:そうそう。それは裏テーマがあります。
表テーマとしては、この丸シールに「味わい」とか「国旗のカラー」を意識しています。裏テーマとしてはクラブで携帯のカメラに貼られるシールから着想しました。ヨーロッパではクラブでは「ノー・フォト・ポリシー」と言って、クラブ内での写真撮影を禁止が進んでいます。この動きは「撮影した写真を後日楽しむ」のではなく「その瞬間、瞬間の経験を楽しむ」という思想から始まったよう。その瞬間を楽しむ以外にも来場者や出演者のプライバシーを保護するためもあります。
Sniiteでも「コーヒー=写真」ではなく「経験」としてのコーヒーを楽しんで欲しい。そんな想いからデザインしました。
コロナ以前と今、これから
店舗入り口に配置された大きなソファ。座れるだけでなく、子供たちが乗って遊んでいるのが印象的だった。
田崎:2020年にSniiteをオープンさせましたが、昨今の様子をどう感じていますか。
神戸:海外のお客さんがいないことで世界の広がりがとても狭くなっています。現場で心が動くってことが少なくなってしまった感じがします。今の世界の現状を考えると良くも悪くもオンラインでモノを買うだけになってしまっているよね。
田崎:ALCBも海外のお客さんが少なくて「おすすめ教えてよ!」って聞かれないのが寂しいですね。
神戸:そうですね。コーヒーで一息ついて欲しいって気持ちはどこも同じだと思います。Sniiteでコーヒー飲んで少しでもマシになって帰ってもらいたいな。
さいごに
店内ではアナログレコードでBGMが流れる。「野鳥の世界」が置いてあるのは謎。これは流れません。
Sniiteオーナーの神戸渉さんとは縁が深く、私がONIBUSに入るきっかけにもなった恩人です。前職で仕事について悩んでいたときには、ALCBで相談に乗ってもらい何度も救われました。そして私がONIBUSに入社し、5年と言う歳月を共に過ごし、多くの困難を一緒に乗り越えてきました。ONIBUSを卒業し、自らSniiteをオープンしたことで、更なる未来が広がっていることでしょう。誰かにとって「少しでも前向きになる」そんなSniiteのコンセプトが誰かを救っているのかもしれないと思うと、羨ましくもあり、誇らしくも思います。
また、ONIBUSの元従業員であり、競合でもあるSniiteのオーナーである神戸さんのインタビューができるONIBUSの懐の深さにも感謝するばかりです。今後もONIBUSの卒業生がどのような道に進んでいるのかなどお伝えしていきたいと思います!
是非、SniiteにもONIBUSにも足を運んでみて下さいね。