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ホンジュラス買い付けから観える世界〜素晴らしいコーヒーの生産に携わる人達との出会い〜

ホンジュラス買い付けから観える世界〜素晴らしいコーヒーの生産に携わる人達との出会い〜

『ホンジュラス共和国』

そこは、私の人生において初めてコーヒー豆の買い付けのために訪れることになった国。

それまでの私にとってホンジュラスコーヒーは「中米の生産国のひとつ」程度のぼんやりとした印象のみで、それ以上に興味を向ける対象ではなかったっと言っても過言ではありません。

当時は、日本から遠く離れた国からやってくるコーヒーという飲み物のルーツが、どのような環境でどのような人々の手によって作られ、管理され、私たちの元へ届けられているのか、ということに対して興味はあっても、どこか現実離れした別世界で行われていることのように感じていました。

サプライチェーンの末端で消費者にコーヒーを提供し、スペシャルティコーヒーを扱う人間として、取り扱うモノの上流を実際には見たことがない。

そんな自分のキャリアにどこか疑問を抱いていた頃、巡ってきた”生産国への買い付け”という機会が、これまでの私のコーヒーに対する価値観・ホンジュラスコーヒーへの印象・品質管理に対する考え方に大きな影響を与えてくれました。

そして2015年以降、毎年のように訪れるようになってから、ホンジュラスコーヒーが持つ可能性や魅力に触れていくことで、以前感じていた「中米の生産国のひとつ」以上に興味を向ける対象へ変化していきました。

 この記事を読んで、この国から生まれる素晴らしい作品創りの支えに触れることで、普段意識を向けることのなかった世界への想像を膨らませるお手伝いができれば、と思いっています。

現地への買い付けを実現するために

現地への買い付けを実現するために

皆さんは、”コーヒー豆の買い付け”というものが、実際にどのような道筋で行われているかご存知でしょうか。

そもそも、買い付けたコーヒーを輸入する手段がなくては現地への訪問は実現できません。

コーヒー豆の輸入には一般的に船便が利用されています。コンテナに保管され船で現地を出発したコーヒーは、通常約一ヵ月ほどかけて日本へ輸入されています。

買い手は、コンテナの容量を極力満たせるだけの量を取引することで、コーヒーの買い付けに掛かる輸送コストを軽減させられるわけですが、私達のような小規模ロースターが一度にそれだけの量を買い付けることは容易ではありません。

なので、現在私達が買い付けるコーヒーは、ホンジュラスコーヒーの輸入も行っている日本国内の商社に代行を依頼してサポートをしていただいています。そうすることで、現地への買い付けをはじめ、生産者や現地の輸出業者とのリレーションシップを実現しているのです。

ホンジュラス共和国

ホンジュラス共和国

『ホンジュラス共和国』通称ホンジュラスは、中央アメリカ中部に位置する共和制国家。

現在、日本からのフライトに直行便はなく、アメリカやメキシコなどを経由して約20時間かけて渡航しています。

隣国のグアテマラ・エルサルバドル・ニカラグアと国境を接しているホンジュラスは、コーヒーやバナナなどの農林水産業を主な経済源とし、その経済規模は日本の鳥取県とほぼ同じとされています。

グアテマラの近くの熱帯雨林にある”コパン遺跡”は、古代マヤ文明の儀式が行われた場所で、石彫りの象形文字や石碑、高くそびえる石のモニュメントが現在も残っており、観光名所として毎年多くの人が訪れているのだとか。

聖地サンタバルバラ

聖地サンタバルバラ

ホンジュラスにおける主要コーヒー生産エリアのひとつである「サンタバルバラ」。

ホンジュラス北部の都市サン・ペドロ・スーラにある空港に到着すると、予め連絡を取り合っていた「San Vicente」(サンビセンテ:現地のコーヒー輸出業者)のアンヘル氏が迎えに来てくれています。

そこから車で約1時間30分ほど南下してホンジュラス北西部にあるサンタバルバラを目指します。

今でも記憶に浅い、2020年に上陸した大型ハリケーンによる被害は、パンデミックに続きホンジュラスのコーヒー産業へも大きな影響を与えました。

壊滅的なインフラ被害に遭ってしまい、コーヒー農園から離れた場所に精製処理施設を持つ一部の生産者は、収穫後のコーヒーチェリーを施設へ運搬することが困難になり、腐敗していくコーヒーチェリーをただ眺めることしかできない状況が続いたそうです。

そんな状況の中、ヨホア湖の西側に位置するサンタバルバラの山岳エリアでは、このあたりを拠点とする数多くの作り手によって素晴らしいコーヒーが毎年生産され続けています。

素晴らしい品質が輩出される栽培環境

素晴らしい品質が輩出される栽培環境

この辺りのエリアには比較的標高の高い山が多く、昼夜に寒暖差が生まれます。

日中の光合成によって糖分を蓄えたコーヒーチェリーは、気温が低くなる夜間に養分の消費が抑制され、糖分を蓄えておくことができます。

冷涼な環境下でゆっくりと成熟していくサンタバルバラのコーヒーチェリーは、作り手の管理のもと、複雑で繊細な果実味や素晴らしい甘さを持ったコーヒーへと成長していきます。

”アーリーハーベスト”と呼ばれる、収穫期を早く迎える比較的標高の低いエリアで収穫されるコーヒーと、”レイトハーベスト”と呼ばれる収穫期が遅く比較的標高の高いエリアで収穫されるコーヒーでは、同じ農園で収穫されたコーヒーでも面白い違いを感じられます。

サンタバルバラのテロワールと融合する重要品種「Pacas種」

サンタバルバラのテロワールと融合する重要品種「Pacas種」

ホンジュラスで広く生産されるコーヒーの品種のひとつに「Pacas種」があります。

エルサルバドルでブルボン種の突然変異種として発見されたPacas種は、1970年代にホンジュラスに渡ると、様々なエリアでもこの種を中心としたコーヒーの生産が盛んに行われるようになり、広く伝わってきました。

中でもサンタバルバラエリアの環境で育てられたPacas種には、りんごや梨、ストーンフルーツといった印象が表現されるコーヒーが多く、素晴らしいアイデンティティを発揮します。サンタバルバラの品質は、国際品評会の場でも数え切れないほどの功績を納めています。

そんなPacas種との出会いは私のホンジュラスコーヒーへの興味の領域に変化を与えてくれました。

実は、オニバスコーヒーでも過去販売したホンジュラスコーヒーの殆どが、サンタバルバラエリアで生産されたPacas種です。どうしても目で追ってしまう、そんな魅力を感じてしまうコーヒーなのです。

他のコーヒー生産国やエリアで生産された同品種の個性とは違った、サンタバルバラから輩出されるPacas種は、間違いなくホンジュラスが生んだ素晴らしい作品のひとつだと思わせてくれます。

生産者と私たちを繋いでくれる現地の輸出業者「San Vicente」

生産者と私たちを繋いでくれる現地の輸出業者「San Vicente」

現地の輸出業者「San Vicente」は3代続くコーヒーエクスポーターで、サンタバルバラエリアの農家を中心に約200以上の農家と取引を行っています。

私達が買い付けるコーヒーの選定から取引までを行うその場所は、ヨホア湖のすぐそばにあるペーニャ・ブランカという人口3.5万人ほどの小さな街に拠点を置いています。

San Vicenteのオーナーであるアンヘル氏を中心とした数名のスタッフは、買い付けのために世界中から訪れる商社やロースターへの現地アテンドやカッピング、取引までの全に対応したり、生産者が取引を行うために持ち寄ったコーヒーの品質保持に不可欠な水分値や水分活性値をコントロールするなど、品質管理を通して生産者へのサポートも行っています。

私達はこの場所で数日間に渡ってカッピングを行った後、買い付けの候補に上がったコーヒーの作り手の元へ、農園や精製処理施設の環境を視察するべく訪問しています。

こうして買い付けたコーヒーは先述の通り、輸入代行サポートによって日本へと迎えられるのです。

おわりに

パンデミック以来、3年越しに実現した現地での買い付けに、生産者との再会や素晴らしいコーヒーたちとの出会いに期待を膨らませていました。

しかし、今期のサンタバルバラのコーヒー収穫量はハリケーン被害や肥料など物価の高騰の影響もして、エリア全体で例年よりも50%ほど減少、最も影響を受けた農園では70%も収穫量が落ち込んでいました。

生産者たちはきっと大変だったに違いない。

なんて一言では言い表すこともできない。

それでも品質は変わらず素晴らしかった。

困難を乗り越えて生産されたコーヒーたちが皆様の手に届くまで、コーヒー産業に関わる多くの人の手によって管理され品質が保たれています。

私達が毎年、San Vicenteのカッピングテーブルに並ぶコーヒーを目の前にし胸を熱くさせていられるのも、素晴らしい作り手や彼らへのサポートを継続的に行なっているSan Vicenteチーム、輸入をサポートしてくれている商社のような存在が前提にあってこそ成り立っています。

冒頭に、「コーヒーを飲む人の想像を膨らませる手伝いができたら嬉しい」なんて伝えましたが、彼らのコーヒーを飲み終わる頃にはすべて昇華されているかもしれない。

私たちを無心で愉しませてくれる素晴らしい作品を創り上げる彼らは私にとってのヒーローです。

Text by Shuhei Yasutake