2021.7.15
  • サステナビリティ

コーヒーカスから作る培養土"COFFEE SOIL" ~廃棄物を「資源」に変えるオニバスの取り組み~

コーヒーカスから作る培養土"COFFEE SOIL" ~廃棄物を「資源」に変えるオニバスの取り組み~
コーヒーカスから作る培養土"COFFEE SOIL" ~廃棄物を「資源」に変えるオニバスの取り組み~KV

「年間2300万トン」

この数字はコーヒーの生産と消費によって発生する廃棄物の量。量もさることながら、抽出後のコーヒーカスからは、温室効果ガスの一種であるメタンガスを発生させることが知られており、環境問題にも発展しています。あまり知られていませんが、海外ではこの「コーヒー廃棄物」に関して先進的な取り組みが積極的に行われています。


フィンランドのスタートアップRENSはコーヒーカスから強度の高い糸を開発。

デンマークのKaffe Buenoは、グルテンフリーの小麦粉「Kafflour」を。

ベルリンのkaffeeformや、シドニーのHuskeeコーヒーかすからコーヒーカップを。

ベトナムShoeX Coffeeは、コーヒーカスを使った素材で、靴やフェイスマスクを製作販売。


SDGsが叫ばれるいま、持続可能な社会を実現するために、コーヒー業界でも様々な取り組みが行われています。オニバスコーヒーでも、廃棄されるコーヒーカスを培養土にアップサイクルしたプロダクト「コーヒーソイル」を去年から製造・販売を行っています。「アップサイクル」とは、役目を全うした「本来ならば廃棄されるような物」を再利用し、価値の高いものに姿を変えること。

コーヒーカスを捨てずに循環させるこの試みは、昨年の第一弾リリース時に多くの反響をいただき完売しました。2年目となる今回も先日ついに完成!オニバスコーヒーの店頭やオンラインショップで販売再開しています。

今回はコーヒーカスから作る培養土"COFFEE SOIL"ができるまでのお話です。


オニバス”COFFEE SOIL"の始まり

オニバス”COFFEE SOIL"の始まり

オニバスコーヒーではドリップコーヒーを1杯作るために13gのコーヒー豆を使用しています。仮に1日100杯ドリップコーヒーを淹れたとすると1日1.3kg、1ヶ月ではなんと約40kgのコーヒーカスが出る計算になります。このコーヒーカスはオニバスコーヒーから排出される廃棄物の多くを占め、事業廃棄物として処理することになります。

しかしコーヒーはもともとは農作物。コーヒーカスも植物性の有機物であり、微生物の力を借りて分解すれば自然に還るもの。水分を含んでずっしりと重たくなったコーヒーカス入りのごみ袋を毎日捨てながら、環境負荷の大きい焼却処理にするのではなく「有機資源」として有効活用させる手段はないかと模索していました。

そこで出会ったのが、原宿・渋谷・恵比寿などの都市での農業活動を通じてコミュニティを創っている非営利団体Urban Farmers Club代表の小倉さんです。そして小倉さんのご紹介で、東京都三鷹市で鴨志田農園を営む鴨志田さんにもご協力いただき去年からオニバスコーヒーから出るコーヒーカスを使った”COFFEE SOIL"作りが始まったのです。


オニバス”COFFEE SOIL"の作り方

オニバス”COFFEE SOIL"の作り方

COFFEE SOILといっても、コーヒーカスをそのまま撒くと、腐敗して異臭を発したり、土中のバランスを崩し植物の成長を阻害したりと逆効果になってしまいます。

そこで重要なのが「堆肥にすること(=コンポスト)」。堆肥化とは有機物を土中や空気中の微生物のはたらきで「完全に分解すること」です。完全に分解したものは安全に土に還り、さらには土中の環境を整えることができるのです。農作物の残渣を堆肥にして土に還す循環農法は昔から行われており、一部のコーヒー農家ではコーヒー豆を精製する際に排出されるコーヒーチェリーの果肉を堆肥化させて有機肥料として使っている例もあるんですよ。

では、実際の”COFFEE SOIL"作り方をご紹介します。


・材料を集めて乾燥させる

昨年11月、まずは材料となるコーヒーカスを集めることからコーヒー堆肥づくりは始まりました。

今回仕込んだのは、奥沢・中目黒・八雲・渋谷・外苑前(今年3月閉店)の5店舗分のコーヒーカスと、焙煎時に排出されるコーヒーの薄皮です。コーヒーカスは、堆肥化しやすいように他のゴミと完全に分別してから、各店舗である程度乾燥させて収集。1週間で約280Lもの量になりました。

八雲店では高床式にし、たまに攪拌しながら乾燥させました。ある程度乾燥すると砂のようにさらさらとしてきます。

中目黒では外席を使って乾燥。 

チャフと呼ばれるコーヒーの薄皮。焙煎時に豆から剥がれて焙煎機内に溜まります。毎日の焙煎機掃除ではチャフもごみ袋一杯ほど廃棄されます。

発酵させる

十分な量が集まり乾燥させたら、鴨志田農園の堆肥舎に運び、堆肥化の工程に進みます。ここで堆肥づくりのプロである鴨志田さんに、落ち葉や籾殻などの堆肥基材をバランスよく配合してもらい、さらに水分調整をしながら、分解者である微生物が活動しやすい環境を作ってもらいます。ここから数ヶ月間かけてじっくり発酵させていきます。

運ばれたコーヒーカスとチャフをバケツなどで計量します。体積で把握することで、混ぜ込む基材(籾殻や落ち葉)の量を割り出します。

集められたコーヒーカスとチャフ。これで約280L分。わずか1週間でこれだけの量のコーヒーカスが排出されていることがわかります。


堆肥切り返し作業

温度や水分の調整と、微生物へ酸素供給をするために、「切り返し」と呼ばれる、堆肥の山の上下を返しながら攪拌する作業も数週間毎に行うのですが、この切り返し作業、なかなかの重労働です!

水と空気と微生物の力で発酵が進むと、微生物の呼吸による発熱で堆肥の温度は60℃以上まで上昇し、表面からも湯気が立ち込めるほどの高温です。この高温の状態を2ヶ月以上保つことで、雑草の種子や大腸菌などの病原菌は死滅し、その後分解が完了すると、畑などでも安心して使える完熟堆肥となります。

籾殻、米ぬか、落ち葉、壁土などと配合し混ぜ合わせます。仕込んだばかりの頃はカサもあり全体的に薄い色をしています。


コーヒーソイル仕込みと同時期に加茂志田農園さんで作っていた別の堆肥。内部の温度は70度まで上がっていて、湯気が立ち込めていました。微生物が活動している証拠です。


こちらは堆肥切り返し作業の様子。スコップで山を崩しながら攪拌し、別の場所に堆肥の山を移します。切り返しをすることで水分値と温度の調整、微生物への酸素の供給をします。


・最終仕上げ

昨年11月からスタートしたコーヒー堆肥づくり。数ヶ月間もの間、鴨志田農園さんで育ててもらいました。もともと土のような見た目のコーヒーカスですが、仕上げに伺った時には完全に分解されていてカサも減り、より濃い色の堆肥になっていました。完熟状態なので発酵臭もありません。このコーヒー堆肥を、さらにふるいにかけて石などを取り除きます。そして出来あがったコーヒー堆肥に、他の植物堆肥や土を混ぜ込み培養土にしたのがコーヒーソイルです。

コーヒー堆肥に籾殻堆肥、鹿沼土、バーミキュライトなどを混ぜてそのまま植物に使える培養土にしました。

 

パッケージはコーヒー豆に使用した袋を再利用しています。


店頭やオンラインショップでは1Lずつ販売しているのですが、パッケージには不要になったコーヒー豆の袋を再利用しています。「廃棄物をなるべく出さない」というメッセージを込めて、日付スタンプやシールの剥がし跡が残っているものもそのまま使用しています。


まとめ

まとめ

ゴミを減らすための「リデュース・リユース・リサイクルの3R」。昨今は3Rからさらに広がり、リフューズ(いらないものは断る)・リペア(修理)を加えた5Rや、リジェネレイション(再生品)、リターン(返却)、そして廃棄物を出さないゼロウェイストの観点からは「ロット(生ごみの堆肥化)」というさらなるRも登場しています。最近では家庭から出る生ごみを堆肥化できるコンポストグッズも手に入るようになり、専門的な知識がなくても手軽に始められるようになりました。

コーヒーショップとしてなるべく廃棄物を出さないようにするために、オニバスコーヒーではいろいろな”R”を実践しています。本来であれば廃棄されてしまうコーヒーカスを資源として培養土として土に帰すことで、単なるコーヒーの「消費」を「循環」させることが可能になるはずです。八雲店ではコーヒーソイルでブルーベリーを育てることにしました。スペシャルティコーヒーから作られた土で美味しい実ができたら嬉しいですね。

 


執筆者:山田舞依

この記事をシェアする:

おすすめ商品