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生産国訪問レポート 〜グアテマラ・ラボルサ農園〜
ONIBUS COFFEEでも人気のグアテマラコーヒー。その生産地に7年ぶりに訪ねることができました。グアテマラコーヒーの美味しさの秘密を、現地からのフレッシュな情報と一緒にお届けします。
グアテマラってどんな国?
(引用:Google map)
グアテマラと聞くとどのようなイメージが浮かぶでしょうか?「もちろん、コーヒー!」と言いたいところですが、実際には「どこ?」とお思いの方も多いかもしれません。日本からは飛行機で約18時間。グアテマラは中米に位置します。北西をメキシコ、東側はホンジュラス、エルサルバドル、ベリーズと国境を接しています。中米諸国はスペシャルティコーヒーの生産地としても有名ですが、一口に中南米と行ってもその違いは多種多様。
農業が盛んなグアテマラでは、コーヒーは主力農産物であり、輸出品目としても非常に重要な役割を担っています。グアテマラのコーヒー生産地域は、大きく8つのエリアに分けられていて、今回の滞在では、Huehuetenango(ウェウェテナンゴ)とAntigua(アンティグア)と呼ばれる地域を訪ねました。その中でも、この記事では、ウェウェテナンゴで私たちが例年買い付けているLa bolsa(ラボルサ)農園についてお届けします。
自然の中でコーヒーを育てるラボルサ農園
ラボルサ農園は自然に恵まれています。そしてそれこそが、高品質のコーヒーを育てる秘訣です。ひとつずつ紐解いていきます。
メキシコからの暖かく乾いた風
ラボルサ農園は、ウェウェテナンゴ地域の中でもメキシコとの国境沿いに位置します。案内をしてくれた方が「向こうに見える山を超えたら、メキシコだよ」と教えてくれました。そのメキシコから流れ込んでくる乾いた暖かい空気が、コーヒー栽培の大敵であるフロスト(霜害)を防いでくれます。ウェウェテナンゴは、8つの地域で一番高い標高を誇りながらも、フロストの影響を受けることがないのは、この地理的要因によるものです。
豊かな水源
ラボルサ農園内のある地域は水源が豊富です。パティオ(コーヒーを乾燥させるための平らな敷地)からは川が見え、ウェットミル(コーヒーチェリーを選別・加工する場所)付近には湧水があり、いたるところで水が流れる音が聞こえていました。このおかげで、コーヒー栽培や精製に使う水の確保には困っていない様子でした。
多様な自然環境
コーヒーと言えば、平たく開拓された土地でのプランテーションをイメージする方もいるかと思います。しかし、ラボルサ農園では険しい斜面に木々や巨石がごろごろある自然の中でコーヒーが育っています。
農園内で一番下に位置するパティオから、一番高い標高1,400~1,600mに位置するCipresares(シプレサレス)と、Ventana Grande(ベンタナグランデ)区画を目指して登って行く道中は、行く手を阻むかのような大きな岩や、巨木や、伸び伸びと育つ草木が生い茂り、生命を感じさせる環境です。自分たちよりも遥かに大きい岩や、木々たちに囲まれながら進んでいると、自然の中に包み込まれている感覚に陥ります。コーヒーツリーの周りには、蜂や蝶々が飛んでいて生態系が豊かでした。
大きな木々は、コーヒー栽培にさまざまな効果をもたらします。まずはシェードツリーとして、コーヒーツリーに直射日光が当たらないように影を作る役割。やがて落葉すると、土に覆い被さって保水効果を発揮します。その枯葉が土壌中の微生物によって分解されると、養分となり土へ返って行きます。そして、その養分でまた他の植物が育つのです。自然界ではそんな循環が行われています。
ラボルサ農園では、この自然のサイクルに加えてコーヒーチェリーのパルプを肥料として使用しています。土壌解析を行い、土壌にどの成分が必要なのかを確認した上で、適切な肥料投与も年に2〜3回行っているそうです。
ちなみにONIBUS COFFEEが毎年取り扱っている、ベンタナグランデ区画とシプレサレス区画。ベンタナグランデは、「大きな窓」を意味しています。巨石に開いた空間が大きな窓に見えることから名付けられました。シプレサレスとは「糸杉」を意味し、隣のベンタナグランデ区画を分ける目標になっている糸杉の木から名付けられています。どちらも自然に由来した名前になっているのも、ラボルサ農園の自然の豊かさを感じさせます。
複雑に影響し合う自然が、色々な恩恵をもたらしてくれるのですね。
コーヒー作りを熟知したラボルサ農園の人々
ラボルサ農園で育つコーヒーの品質は、自然だけでなく、そこで働く人にも支えられています。
ラボルサ農園には、コーヒーを栽培している農園の他、コーヒーの苗を育てるガーデン、ウェットミル、パティオ・アフリカンベッド、コーヒー生豆(パーチメント)の保管庫、キンダーガーデン、コーヒーピッカーの住居などさまざまな設備があります。これらの施設は全て後ほど紹介するVides58(ビデス58)という生産者兼輸出業者が保有しています。
ラボルサ農園ではマネージャー、スーパーバイザー、リーダー、ワーカーといった役職があります。現在農園マネージャーを勤めているのは、元々コーヒーピッカーとしてここで働いていた方の娘さん。スーパーバイザーも元々はピッカーとしてこのラボルサ農園に働きに来ていた人物です。ここに、ビデス58の農業技師や農園回り担当者などが加わり、チームとして全員で農園を管理しています。中には10年以上継続してこの農園で働き続けている方が多くいて、コーヒー生産の仕事を熟知しています。そのため、誰に質問してもどんな目的で自分が何のための作業をしているのか明確に答えてくれます。そして、異なる役割を持つみんながそれぞれの仕事に取り組み、お互い対等に会話をしている様子でした。毎年ラボルサ農園より届けられる確かな品質は、彼らの仕事によって作り出されていると思うと感慨深いです。
品質管理と輸出を行うVides58
ラボルサ農園の所有者であり輸出業も行うビデス58の歴史は古く、1958年に遡ります。創設者は当時、コーヒー栽培への思いを抱きながら医者として働いていた創設者のJorge Vides氏。ウェウェテナンゴ地域の国立病院に従事し、この病院には今でも彼の名前が受け継がれています。後に現在のラボルサ農園の土地を購入し、ブルボン種とカツーラ種を植え、コーヒー生産をスタートさせました。1980年にはコーヒーピッカーの子供達が通う為の学校を設立しました。2024年現在は、3世代目となるRenaldoさんが代表を勤めており、その息子Luisさんも仕事に関わっています。
ビデス58は、グアテマラシティにオフィスを構えていて、無数にあるサンプルとマシン達はどれも綺麗に整理整頓されていました。このオフィス内でもカッピングなどの品質管理が行われています。農園のある場所からオフィスまでは車で8時間程の距離ですが、前日に農園から出荷されたコーヒーが翌日にはオフィスに届くシステムだそうです。
今回、買い付けのためにカッピングしたのは、約20サンプル。その中から今年もより良い品質のコーヒーを選びました。皆様にお届けできるのが楽しみです!!
グアテマラのコーヒー生産の課題
さて、そんな良質なコーヒー生産地として有名なグアテマラですが、実はいくつかの大きな課題を抱えています。
人手不足の深刻化
ひとつは、コーヒー農園の人手不足の深刻化です。近年、コーヒーピッカーとして働く季節労働者の人々が、より良い稼ぎを求めてアメリカへ渡ってしまうケースが多くあります。これは、グアテマラに限らず中米の国々で起こっている現象です。
特に、国境近くに位置するウェウェテナンゴ地域ではそれが顕著であるとのこと。ピッカーに限らず、コーヒー農園のオーナーでさえも農園を売り、アメリカに渡ってしまうケースがあるそうです。今回訪れた場所の中でも、空き家を見かけました。コーヒー農園のオーナーがかつて住んでいた家が放置されているのです。
この人手不足は、言葉の響きよりも大きな課題として、コーヒー生産地に立ちはだかります。コーヒーピッカーの人手不足は、コーヒーの品質に直結すると言っても過言ではないからです。コーヒーチェリーは適切な時期に収穫が出来ないと、チェリーが過熟になったり、虫に食べられたりしてしまい、コーヒーの品質が損なわれてしまうのです。
気候変動
もう一つの課題の気候変動は、ラボルサ農園にもすでに影響を及ぼしています。雨量の減少こそ顕著ではないものの、雨の降る時期が数ヶ月遅れた年があったそうです。雨はコーヒーにとって花を咲かせるための重要な存在です。雨の時期が大幅にずれると、開花の時期も変わってしまい、その結果、受粉・結実などコーヒーチェリーの成長に影響を及ぼします。それが繰り返されることになれば、収穫時期・収穫量の変動は免れません。
コーヒーは自然の中で育てられる農作物のため、収穫時期を自由自在にコントロールすることは出来ません。それでも、良いコーヒーを届けるために日々働いている生産者のおかげで、私たちはお店で美味しいコーヒーを提供することができます。確かな品質に育てられたコーヒーを、責任を持って美味しく提供すること。もう一歩踏み込んで、その世界を持続可能なものにする為に、私たちに出来ることは何なのか。このチャレンジに向き合い続けることは、当事者として、目を逸らしてはならないことだと思っています。
さいごに
久々のラボルサ農園訪問を中心に、グアテマラのコーヒーについてお届けして来ました。現地の様子を少しでもお伝えできていたら嬉しいです。4月の農園訪問の様子は、ONIBUS COFFEEのインスタグラムでも公開しています!動画もあるので、臨場感のある農園の様子を見たい方は是非チェックして見てくださいね。
text and phots by Chiaki Kuwahara