- サステナビリティ
デセール食材探訪・那須栗園〜記念すべき初収穫の栗がONIBUS COFFEEへ〜
写真:那須栗園 水野夫妻
ただいま自由が丘店で週末限定でご提供しているモンブラン。秋を感じるこの一皿ができるまでには、ある栗農家さんとの出会いがありました。それが「那須栗園」。栃木県那須烏山市にある今年できたばかりの農園です。スタッフ山田がこの出会いのきっかけと、栗園での体験をレポートします。
那須栗園との出会い
ONIBUS COFFEEでは、食材調達の透明性を高めることにも注力しています。コーヒーはもちろん、菓子に使う小麦やフルーツ、ブランチに添えるデリなど、できる限り生産者を訪ねてきました。今年7月にオープンしたONIBUS COFFEE那須店での日々は、さまざまな食の産地である栃木県の生産者と繋がる機会にも恵まれていました。
そこで私が出会ったのが「那須栗園」です。生産者は水野智仁さん・ことみさんの若いご夫妻。ことみさんは、ONIBUS COFFEE那須店がある『GOOD NEWS』のスタッフであり、GOOD NEWSプロジェクトを通じて一緒に仕事をし、私が那須に滞在していた時には毎日のように会う仲間でした。ある日「ことみちゃんの旦那さんがどうやら栗農家をはじめたらしい」という情報を聞きつけて、手伝いになるかわからないけど絶対行きたい!とやや強引に繋げてもらったのがきっかけです。
ことみさんの夫の智仁さんは、愛知県のご出身。隣の岐阜県が栗の産地ということもあり小さい頃より栗が好きだったそうです。名古屋で会社勤めをしていた時にも、栗にまつわるお仕事をする機会が多く、自分と人を繋げてくれる栗に愛着を感じていたそうです。
その後、数年前に夫婦で那須に移住。智仁さんは縁のない土地で人生について考えたり、自然の営みを感じたりする中で、那須でできることを模索するようになったそうです。そして「那須の地元産の栗を見たことがない」ことに気がつきました。実際、震災やコロナの影響で栃木県内の栗農家はほとんど全て廃業していたそうです。そんな中「うちの栗畑を貸してあげてもいいよ」と声をかけたのが、那須烏山市にある栗農家さんでした。
東京ドーム1つ分の面積に1000本以上の栗の木が育つ50年以上も歴史があるこの農園も、数年前に廃業していました。それまで農業経験のなかった智仁さんですが、那須の土地で栗作りに挑戦したいと強く思い、この農園を引き継ぐ形で、今年「那須栗園」として農業人生を始めました。
初収穫へ
私が初めて那須栗園へ訪問したのが9月上旬。いよいよ栗が実を落としはじめた頃でほぼ初収穫の記念すべき日でした。その日は元農園主のおじいさんもいて、那須訛りを交えていろいろと教えてくれます。数年間使われていなかった作業場もおじいさんが率先して掃除してくれました。久しぶりに栗の収穫を迎えるのが嬉しそうでした。
収穫にはカゴをいくつかと、ちりとりバサミを持って栗畑へ向かいます。栗の木は急斜面にあり、方角による日照や品種によって収穫時期が異なっていました。
畑にある品種は「ぽろたん」「丹沢」「国見」「利平」「銀寄」など数種類。品種改良種の「ぽろたん」は渋皮がポロっと剥きやすいことと、丹沢を親にしていることからこの名前が付いています。早生種なので早い時期に収穫されます。
斜面には栗のイガがたくさん落ちていました。といっても落ちているイガ全てに実ができているわけでなく、生理落果といって途中で自発的に間引いた可食部のないイガもあります。注意深く見ながら実が茶色くできているものを拾います。
写真:収穫された栗
カゴいっぱい収穫すると、今度は作業場に戻ってイガ剥きです。厚手の軍手を2重にしてもたまにイガが刺さります。剥けないイガや虫にやられているものはここでハジきます。一つのイガの中には3つの栗が入っているのですが、絵に描いたような栗が出てくると本当に可愛らしい。イガを剥くとカサは半分以下になります。
その後、水に浸けて洗いながらさらに選別します。大きな桶に入れて、浮くものはハジきます。「浮く」ということは虫食いで空洞ができて軽くなっていることを意味します。見た目ではわからない程度の虫食いも多く混じっていました。その後さらに目視でも虫食い穴の有無や異常なものがないか選定します。
写真:水に浸けての選別
実際の作業は見ていませんが、このあと比重選別でサイズ分けもしていくそうです。こうして様々な選別をしてようやく出荷です。
9月中旬に再び訪れたときには収穫期のピークを迎えていました。
拾っても拾っても、剥いても剥いても、栗がどんどん実を落としていきます。ぽすんと落ちる瞬間も目にしましたが、頭に刺さったら痛そうだなとか思って見ていました。落ちた栗はそのままにしておくと数日中に鬼皮にシワがよってしまい、商品価値が下がってしまいます。また虫食いのリスクも高まります。なので、基本その日落ちた栗はその日のうち、遅くても翌日には収穫。急斜面を何度も行き来して取りこぼしのないようにしなければいけません。
ということで収穫最盛期には日々、朝早くから寝る間を惜しんで、収穫-イガ剥き-水選別-比重選別-出荷をされていたそうです。品種の話やこの工程はコーヒーにも通じるものがあります。私はコーヒー農園には行ったことはないですが、このような手間暇をかけて農作物は作られているんだと感慨深く、また素材への愛情も自然と湧き上がりました。
収穫前の草刈りや栗拾いにはシルバー人材センターの方が、イガ剥きと選定には就労支援(障害のある方)の労働力も活用。インクルーシブな地域雇用も生み出しています。
もともと慣行栽培だったこの栗畑。那須栗園としては1年目の今年は、試験も含め部分的に除草剤や農薬を使用しています。今後はなるべく使わないようにしたいと考えているそうです。
地域の一次産業を担う若い就農者として、また、一度は衰退した那須産の栗の復活を目指す水野さんは注目度も高く、私が訪れた時には、市の職員や地元の新聞などメディアの取材も来ていました。
初収穫の日の数日後、ことみさんが中部地方式の栗きんとんを作って持ってきてくれました。蒸した栗を裏ごしして、砂糖を加えて茶巾のように絞ったとてもシンプルなお菓子です。ことみさん夫妻が情熱をかけ、私も収穫させてもらったという思い入れももちろんありますが、優しい栗の香りと甘みが感動を覚えるほどの美味しさでした。
1年目の収穫ということで収量や品質などわからないこともあり、智仁さんも販路については未定だったそうです。ですが、この栗の美味しさやストーリーを多くの人に知ってもらいたいという思いで、ONIBUS COFFEEのペイストリーにぜひ使わせてほしいという運びになりました。
レポートは、自由が丘店でスイーツディレクターを務める山中に続きます!
写真:今期最後の品種 岸根
那須栗園の栗のデセール
那須栗園さんの栗はONIBUS COFFEE自由が丘店の週末限定アシェットデセールに使用しています。
最初に送っていただいた利平、銀寄、ぽろたん。それぞれ個性のある栗で何よりどこか安心する優しい味わいでした。
那須の栗をペースト、クリーム、渋皮煮、シロップと余すことなく使ったデセール。和栗のナッティな味わいに合わせて黒葡萄や酸味のアクセントにカシスを使ったピクルスやゼリーなどたくさんの楽しめる要素が詰まった一皿です。
那須栗園のモンブラン 黒葡萄のソルベ
先日、水野夫妻がわざわざ自由が丘までこのデセールを食べに来てくださいました!初めてお会いしたのですが、お二人とも物腰柔らかく「あぁ、だからあんなに優しく丁寧な栗たちを作れるんだ」と感じました。ご自身で育て初収穫された栗が生まれ変わった姿を見て智仁さん、ことみさんも喜んでくださり、僕も感無量でした。
(那須栗園のモンブランは自由が丘店で11月中旬まで提供予定です)
『生産者の顔が視える』食を届けることをテーマにフードやデザート、コーヒーを通して素材の作り手、その素材を提供する僕ら飲食店、その体験に喜び感動してくださるゲスト。全てが繋がり、輪になっていく時を体感できたことを嬉しく思います!
来年は僕も那須栗園さんへ収穫のお手伝いに伺い、より深い思いをお皿の上に込めた一品を作りたいです!
Text by Mai Yamada & Kohei Yamanaka